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弁護士法人苗村法律事務所※1
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子
5年前のこのコーナーの私の最初のコラムは、「企業法務は、社会悪?」というものであった。このコーナーがリニューアルされることになり、今回が私の最後のコラムになるが、やはりそのタイトルに「悪?」と付けなければならないのは残念である。最初のコラムでは、なぜ学生が企業に対し19世紀的な搾取者といった考えから抜け出せないのかを考え、それは指導者がそうだからだと言われたことを書いた。今回は、民法改正に関わる方達の人間観がもしかすると18世紀より前??という私の疑問を述べて締めくくりとさせていただく。
2015年の成立を目指して、2月26日に民法(債権法)の見直しに関する法制審議会の中間試案(案)が出された。翌日の日本経済新聞の記事では、契約ルール、中小に配慮と題して、個人保証を原則無効とする、法定利率を変動制にする、約款のルールを明示するなどが、主な見直し項目として掲載された。普段法律を使う立場の実務家の常で、法律が施行される頃に勉強しようなどと考えていたのだが、参加している研究会で民法改正が取り上げられ、この中間試案(案)を見て驚いたのは、これらの紹介項目ではなく、継続的契約関係の終了に関する事項であった。
中間試案(案)では、期間の定めのある契約について、「その期間の満了によって終了するものとする」とこれは当然の内容を規定するとしている。驚いたのはそれに続く、
「ただし、当事者の一方が契約の更新を申し入れた場合において、当該契約の趣旨、契約に定めた期間の長短、従前の更新の有無及びその経緯その他の事情に照らし、更新の申入れを拒絶するにつき、正当な事由がないと認められるときは、相手方は、更新の申入れを拒絶することができないものとする。」
の部分である。そして、
「更新の申入れを拒絶することができないときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなすものとする。ただしその期間は、定めがないものとする。」
と続く。そしてまた期間の定めのない契約についても、
「期間の定めのない契約の当事者の一方は、相手方に対し、いつでも解約の申入れをすることができるものとする。ただし、当該契約の趣旨、契約の締結から解約の申入れまでの期間の長短、解約の申し入れの予告期間の有無及びその長短、その他の事情に照らし、解約の申入れをするにつき、正当な事由がないと認められるときは、その当事者の一方は、解約の申入れをすることができないものとする。」
とされる。正当事由があって解約の申入れが許されるときには、申入れの日から相当な期間を経過することによって契約が終了するものとしているのである※2。
継続的契約の終了に関する裁判例としては、契約上期間の定めが明示されていても、さまざまな事情から、その期間終了を以て契約の終了とせず、相当の期間を経ないと契約が終了しないとする例が散見される。そこで、これまでも相談などで継続的契約の終了の可否を尋ねられた場合には、相手から争われると3ヶ月から1年は猶予期間をみておく必要があるかもしれないと返答してきた。しかし、この中間試案(案)が改正条文となれば、正当事由がなければ、更新拒絶できず期間の定めのない契約となるが、その場合解約については、正当事由がなければ申入れすらできなくなると説明しなければならない。
このような明示の契約期間を無視するような継続的契約関係の終了に関する判例法理自体、その適用はそのような解決を要するような特殊な場合、例えば一方当事者がその契約のために契約期間を遥かに超えて回収を要するような設備投資をし、それを相手も当然に認めていたというような、当事者間に明示の契約期間とは異なる黙示の合意があるとも言える場合に限られるものと考えている。
しかし、そのように説明しても、明示の契約内容を無効にすることの合理性を理解してもらうのは、特に外国人に対しては難しく、日本法が透明でない、理解しにくいと言われる一因となってきた。この法理と似たようなものである、労働契約の解雇権濫用法理については、日本と似たような法理を持つ国(アメリカではいくつかの州)もあり、また使用者と従業員という特殊な関係から理解されやすいが、賃貸借の信頼関係破壊の法理については、これを理解してもらうのは困難である。これらが中間試案(案)の言う継続的契約関係に入るのかはともかく、それ以外の販売代理店契約や、ライセンス契約までが契約上期間が明示されていても、その条項は直ちに文言通り有効とはいえず、正当事由がなければ契約を終了させることができないなどと言って理解してもらえるとは到底思えない。
この中間試案(案)は、当事者が契約で期間を定めている内容を変更するというのであるから、強行法規と考えざるを得ないであろう。となれば、例え契約の準拠法を外国法としても、日本で契約の履行がされているような場合には、この中間試案(案)が適用されてしまうことにもなりかねない。そのようなリスクを侵して、外国の企業は日本の販売代理店やライセンシーと契約をするであろうか。契約を結ぶとしても他の条件、最低購入量(販売量の定め)、競合品取扱の禁止等がかなり厳しくなるであろう。
分かり易くするとの名目の下、判例法理を全て立法化するというのは、大変な間違いだと思う。訴訟や裁判というのは、当事者間では解決できない特殊な事情のある場合にのみ起こるのである。それを一般化し法文化すると、その法文が一人歩きし、判例がその事案を解決するために曲げざるを得なかった、本来法文にあった原則自体を歪めてしまう。
現代は、契約という概念があったかどうかという江戸時代、恐れながら取引を続けとうござんすと、大岡越前守に訴えた時代とは違う。企業同士の契約であれば、各当事者とも、そのコスト回収も検討して期間設定する必要があることは認識している。にもかかわらず、契約条文を無効化するような見直し案を提案される人々は、現代日本の企業を18世紀前と同様に考えているのではないかと思ってしまう。継続的契約の終了に関する中間試案(案)はその最たるものだと思う。これでは、民法改正ではなく、民法の改悪である。そういえば、中間試案(案)が出る前のパブリックコメント、この継続的契約関係の終了の規定の導入に対する最高裁の意見は、反対であった。裁判所こそ、まさに法制審が引用しているような裁判例が、一般化されるべきでない特殊事例であることをよく知っているのだと思う。
(掲載日 2013年3月18日)
次回は4月1日(月)に掲載いたします。
4月1日からは、新しいコラム連載がスタートします。ご期待ください。