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文献番号 2017WLJCC007
金沢大学
教授 大友 信秀
1.はじめに
コメダ珈琲店として喫茶店事業を展開する株式会社コメダ(以下、債権者という。)が、株式会社ミノスケ(以下、債務者という。)を相手に求めていた店舗外観等の使用差止めを求める仮処分の申立てが認められた(以下、本件命令という。)。債権者は、店舗外観に対して立体商標も取得しており※2、ブランド表示としての立体商標の活用といわゆるトレードドレスの関係が注目される。
本稿では、本件命令で保護が認められた店舗外観の内容及び保護範囲を分析し、我が国におけるトレードドレス保護に与える影響、及び立体商標と合わせたトレードドレスの保護のあり方について検討する。
2.事実
(1) 債権者及び債務者の事業
債権者は喫茶店事業を主たる事業とする株式会社であり、直営及びフランチャイズ展開している「コメダ珈琲店」店舗は平成28年1月時点で約660に達しており、店舗数で全国第3位のコーヒーチェーンである。債務者は、TVゲーム事業、エンターテイメント事業等※3を主たる事業とする株式会社であり、平成26年8月から喫茶店である「マサキ珈琲」1号店(以下、債務者店舗という。)※4を営んでおり、平成27年9月17日は、債務者店舗とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲」2号店の営業も開始した。
(2) 債権者の店舗タイプと関西圏における郊外型店舗の概要
コメダ珈琲店の店舗タイプは、ビルイン型(都市部における商業ビル等の一角に設けられるタイプ)、SCモール型(ショッピングモールの一角に設けられるタイプ)、郊外型(郊外において幹線道路等に面して一戸建ての店舗建物が設けられるタイプ)に大別される。平成27年9月1日時点で、全国のコメダ珈琲店は645店舗であり、そのうち郊外型は496店舗であった。また、本件で問題となった債務者店舗のある関西地域における郊外型店舗は59店舗であり、このうち和歌山県には平成24年に和歌山大谷店が出店されて以降5店舗(ほかにSCモール型1店舗)あった。なお、平成26年8月以前からある和歌山大谷店ほか3店舗の1日当たりの来客数はおよそ400人前後である。
(3) 郊外型店舗の外観とその特徴(債権者表示目録の内容)
債務者店舗に対するコメダ珈琲店の比較対象店舗(岩出店)の外観※5は、債権者が平成15年以降の全国展開においてブランドイメージの浸透を企図して郊外型店舗を標準化させてきた際に主要な構成要素としてきたと主張する、出窓レンガ壁、明色地の化粧板、大型の格子窓、赤色ひさしテント、切り妻屋根を含む6つの特徴を備えている※6。
(4) コメダ珈琲店に関する宣伝等の状況(メディア目録の内容)
債権者は、コメダ珈琲店を取り上げたテレビ番組及び新聞・雑誌で掲載された記事を証拠として提出している(テレビに関しては、平成24年7月から平成27年4月まで。新聞・雑誌に関しては、平成23年12月から平成27年4月まで。)。その中で、コメダ珈琲店の郊外型店舗の特徴を映した映像、新聞に掲載されたカラー写真が確認されている。また、テレビ番組の中で、ナレーターが「コメダのお店はどこも必ず本物の木とレンガを使ったログハウス風。」と述べていることも確認されている。
(5) 債務者表示
債務者は平成26年8月16日以降、債務者店舗において、債務者表示を使用しており、債務者表示の外観※7は債権者比較対象店舗の外観が有する各構成要素を全て備えている。債務者は、債務者店舗開店の際、和歌山市内北部に、債務者店舗の写真を掲載したチラシを配布し、債務者ウェブサイトにおいて債務者店舗の写真を用いた画像を掲載していた。
(6) 本件申立てに至る経緯
債務者は、コメダ珈琲店のフランチャイズチェーンの店舗を開業したいと考え、平成25年2月及び3月に債権者の従業員との間で面談を行ったが、和歌山県下ではすでに他社がフランチャイジーとして営業していたため、債権者は同年4月にフランチャイジーとして受け入れることができない旨を債務者に伝えた。
債務者は、本件比較対象店舗から電車又は自動車のいずれによっても30分程度で訪れることができる地に店舗を建設し、平成26年8月16日から営業を開始した。
債務者の店舗営業開始直後から、債権者に債務者店舗とコメダ珈琲店との関係に関する問い合わせが多数寄せられたため、債権者は、コメダ珈琲店ウェブサイトにおいて、「お客様よりお問い合わせをいただいておりますマサキ珈琲店(和歌山市〈以下省略〉)は、コメダ珈琲店とは一切関係ございません。」との告知をした。また、インターネット上でも、債務者店舗が外観その他の点でコメダ珈琲店に酷似していることが話題となった。
債権者は債務者に対して、債務者店舗の外装内装形態等を維持した上での営業行為を直ちに中止するよう通知書を送付したが、債務者が営業を継続したため、債権者は平成27年5月14日に、本件仮処分の申立てをするとともに、本案訴訟※8を提起した。
(7) 本件申立て後の経緯
債務者は、本件仮処分命令申立事件及び本案訴訟継続中に、和歌山市内で債務者店舗とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲店」2号店を建築し、平成27年9月17日から営業を開始した。
債権者は、平成28年2月19日に、コメダ珈琲店の郊外型店舗外装について立体商標の商標登録出願をし、同年5月20日に商標登録を受けた※9。
3.裁判所の判断
(1) 債権者表示1(店舗外観)の商品等表示該当性について
① 店舗外観が商品等表示に該当する場合
「店舗の外観(店舗の外装、店内構造及び内装)は、通常それ自体は営業主体を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではないが、場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを一つの目的として選択されることがある上、①店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、②当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不競法2条1項1号及び2号にいう『商品等表示』に該当するというべきである。」
② 債権者表示1(店舗外観)の顕著な特徴
「債権者表示1は、別紙『債権者表示1の主要な構成要素』記載…のとおりの特徴が組み合わさることによって一つの店舗建物の外観としての一体性が観念でき、統一的な視覚的印象を形成しているということができるところ、これら多数の特徴が全て組み合わさった外観は、建築技術上の機能や効用のみから採用されたものとは到底いえず、むしろ、コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗の店舗イメージとして、来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して選択されたものといえる(略)。そのようにして選択された、切妻屋根の下に上から下までせり出した出窓レンガ壁が存在することを始めとする特徴…の組合せから成る外装は、特徴的というにふさわしく、これに、半円アーチ状縁飾り付きパーティションを始めとする特徴…を併有する店内構造及び内装を更に組み合わせると、ますます特徴的といえるのであって、本件において提出された書証(略)等に見られる他の喫茶店の郊外型店舗の外観と対照しても、上記特徴を兼ね備えた外観は、客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しているということができる(他との十分な識別力を有しているということもできる。なお、上記特徴を備えた店舗外観に関し、前記(略)のとおり、需要者の間でコメダ珈琲店の店舗外観が想起されて別紙『インターネット上での指摘』にあるような指摘がされたことも、この点を裏付けるものであるといえる。)。そして、債権者表示1には、(主たる構成要素として挙げられた〔筆者注〕)特徴…以外の構成要素も組み合わさっているものの、そのことが上記視覚的印象の形成を妨げるものではない。なお、債権者表示1には、それ自体特徴的な部分とさほど特徴的ではない部分とが含まれているともいえるが、後者について上記視覚的印象の形成に当たって関連性がないとまでいうことはできない一方、債権者が多数の条件を付加することによって保護範囲が狭くなるような限定をしているのであるから、これら多数の条件の組合せによって特定される債権者表示1を見たときに(『コメダ珈琲店』『KOMEDA’S Coffee』という文字部分自体による効果を除いても)その営業主体について『コメダ珈琲店』(債権者)であると認識するのに十分と判断できる以上は、一つの店舗建物の外観として一体性が観念できる債権者表示1のうち、上記のさほど特徴的でない部分を峻別して排除する必要まではないというべきである。したがって、債権者表示1は、客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しているというべきである。」
③ 債権者表示1の周知性
「…認定した事実によると、…コメダ珈琲店が平成15年以降に全国展開していく中で、その郊外型店舗の外観について標準化が進められたところ、それは、もともとコメダ珈琲店の特定の店舗イメージ(略)を具現することを目して標準化されたものであること、…コメダ珈琲店の郊外型店舗は、関西地方では平成21年から増加していき、和歌山県内においても平成24年以降平成26年8月までに4店舗が出店され、…自ら又はフランチャイジーを通じて、これらの店舗において債権者表示1又はこれに近い表示を継続的・独占的に使用してきたこと、したがって、同月の時点で、コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗に共通して、あるいは典型的に、債権者表示1が用いられていたといえること、…コメダ珈琲店についてはテレビ番組や新聞・雑誌等で度々宣伝・報道がされ、その中で、郊外型店舗の外観も少なからず視聴者・読者等に知らされたこと(さらには、テレビ番組の中には、コメダ珈琲店の郊外型店舗の『ログハウス風』の外観に着目したナレーションが入ったものもあったこと)を指摘することができる。そして、…コメダ珈琲店の郊外型店舗には、近隣地域に居住等する者を中心に日々多数の者が来店し、その外装のほか、店舗滞在時間中にその店内構造及び内装を目にすることとなった上、上記店舗が幹線道路等に面した一戸建ての建物であるため、その外装については上記道路等を通行する際にも目に留まったと考えられるところ、上記来店者には、来店等するたびに一定時間その外観を視認することで(はっきりと意識的に観察、記銘したものでなくても)十分な識別力を有する特徴…の組合せによる視覚的印象(略)が残ったものと推認される。加えて、…マスメディア等による宣伝・報道によって、多くの視聴者・読者等にコメダ珈琲店が知られるようになったのみならず、ある程度は上記と同様の視覚的印象が残ったものと推認される。さらに、…現実に…債権者表示1に酷似した債務者表示1を備えた債務者店舗が設けられ、需要者の間に…(債務者表示による債権者業務との混同を引き起こす〔筆者注〕)反応を招いていることなどをも併せ考慮すると、債務者店舗が設けられた平成26年8月16日の時点で、債権者表示1について混同のおそれを生じさせる他者の冒用を許すことが取引秩序上の信義衡平に反する程度に達していたということができるのであって、債権者表示1には混同を防止する必要があるほどの信用形成が既になされていたというべきである。以上を総合的に考慮すれば、債権者表示1は、債務者店舗が設けられた平成26年8月16日の時点で、債務者店舗が所在する和歌山県を含む一つの商圏をなしているとみられる関西地方(略)において、需要者の間に広く認識されるに至っていたと一応認められる。」
④ 債権者表示1の独占適応性
「債務者は、切妻屋根や出窓、レンガ壁等は通常用いられる建築方式にすぎないことなどから、債権者表示1に見られる建築物の一般的な外観を債権者に独占させるべきではなく、債権者表示1を不競法2条1項1号・2号による保護の対象とすることは相当でない旨主張する。しかしながら、本件において債権者が『商品等表示』に当たると主張する債権者表示1は、別紙債権者表示目録記載…の外装・店内構造・内装を全て兼ね備えて初めて営業表示とするというものに絞られている。債権者表示1は、単に建築技術上の機能や効用を発揮するための形態というよりは前記店舗イメージを具現するための装飾的な要素を多分に含んだ表示であり、かつ、前示のとおり需要者に広く認識されていたといえることに加えて、本件では上記のような限定が付され条件が幾重にも絞られていること(したがって、これに類似するとして禁止されるのは、建築に当たっての必要性も低いのに殊更外観を模倣した場合に限られるものとみられること)を考慮すると、殊に本件の債権者表示1については、店舗外観の独占による弊害は極めて小さいというべきであり、債権者表示1を(他の要件を満たす限り)不競法2条1項1号・2号による保護の対象とすることが相当でないということはできない。」
⑤ 小括
「以上によれば、債権者表示1は、不競法2条1項1号及び2号所定の『商品等表示』に該当するというべきである。」
(2) 債権者表示2(提供商品たる飲食物とその容器の組合せ)の商品等表示該当性
「一般に、喫茶店において提供する飲食物の容器は、飲食物の提供という本来の目的を十分果たすよう当該飲食物に合わせて選択される(ただし、商品たる飲食物とその容器たる食器とが必ずしも1対1に対応するとは限らない。)上、客の目を惹くようなデザインの食器が選択されることもあるが、提供商品たる飲食物とその容器との組合せ(対応関係)が営業主体を識別させる機能を有することはまれであるとみられる。こうしたことから、もともと飲食物と容器の組合せ表示のみでは、出所表示機能が極めて弱く、店舗外観以上に営業表示性を認めることは困難であると解されるところ、…認定事実によると、コメダ珈琲店においては、…各商品(飲食物)がそれぞれこれに対応する各容器(食器)と組み合わせて提供されているというのであるが、来店者や視聴者等の中で、これらの対応関係・組合せに気を留め認識するに至った者がどの程度いるかは甚だ疑問である。それにもかかわらず、債権者表示2がコメダ珈琲店の営業表示である旨広く知られていたことが疎明されているとはいえない。債権者表示2が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得していたことを根拠付けるに足りる疎明はないといわざるを得ない。そうすると、…債権者表示1とは別種の表示である債権者表示2は、不競法2条1項1号及び2号所定の『商品等表示』に該当するということはできない。」
(3) 債権者表示の不正競争防止法による保護の可否
① 債権者表示の周知性ないし著名性の有無
「債権者表示1は、債務者店舗が設けられた平成26年8月16日の時点で、関西地方において、不競法2条1項1号所定の『需要者の間に広く認識されている』(周知性がある)表示になっていたというべきである。」
② 債権者表示と債務者表示の類似性
「債権者表示1と債務者表示1とを比較した結果は、…ライン飾り(化粧板)の形状及びデザイン、出窓レンガ壁部の形状及び模様、屋根・壁・窓等の位置関係及び色調、店内のボックス席の配置及び半円アーチ状縁飾り付きパーティションの形状など余りに多くの視覚的特徴が同一又は類似していることから、債権者表示1と債務者表示1とが全体として酷似していることは明らかである。外装及び内装の中で店舗の名称がそれぞれ『コメダ珈琲店』『KOMEDA’S Coffee』、『マサキ珈琲』『Masaki’s coffee』と表示されているなどの相違点を考慮しても、債権者表示1と債務者表示1とが全体として類似していることを否定することはできない(なお、債務者は、債権者表示1と債務者表示1について幾つかの相違点を指摘するが、印象を変えるには及ばないような点にとどまり、上記類似性を否定するには到底及ばない。)」
③ 混同のおそれの有無
「…債権者表示1と債務者表示1とが全体として酷似していること、現に債務者店舗とコメダ珈琲店との関係について問合せ等が多数あったことなどを併せ考慮すると、店舗名等の相違を勘案しても、債務者表示1を使用することは、その使用主体と債権者表示1の出所との間に資本関係や系列関係、提携関係など(系列店、姉妹店などといわれる関係を含む。)の緊密な営業上の関係が存すると誤認混同させるおそれ(いわゆる広義の混同のおそれ)があると認められる。したがって、債務者表示1の使用により不競法2条1項1号所定の『混同』のおそれが生じるということができる。」
④ 保全の必要性
「…認定、説示したところに照らすと、債務者は、債権者の主宰するフランチャイズチェーンへの加入希望がかなわないとなるや、債権者表示1と酷似した外観を有する債務者店舗を建設し、現在に至るまで債務者表示1の使用を継続しているのであって、これにより債権者表示1との間に混同が生じ、その結果、債権者は、需要者の誤認混同やブランドイメージの稀釈化による有形無形の不利益を被っているものとみられる。さらに、債務者は、本件申立てを受けた後も、特にこれを改める気配はなく、かえって債務者店舗とほぼ同様の外観を有する『マサキ珈琲』2号店を設けるに至っている。以上のような本件の事情を総合考慮すると、本件申立てについては保全の必要性があるというべきである。」
(4) 結論
「以上の次第で、本件申立ては、…債務者表示1の使用の差止めを求める限度で理由があるが、その余の申立てには理由がない。よって、債権者に債務者のため500万円の担保を立てさせて、主文のとおり決定する。」
4.店舗外観の保護
(1) 日本におけるトレードドレスの保護
トレードドレスとは、包装や容器を含む商品の外観自体が取引主体を示す表示としての機能を有するに至った際に保護の対象となるそれら外観を言う。また、トレードドレスは、取引主体を示す表示としての機能を有するに至っている場合には、特定のサービスから得られる全体的イメージや総合的外観も含む。
日本では、立体商標を認める改正法が平成9年4月1日に施行されるまで、トレードドレスを表示として保護するためには、本件でも問題となった不正競争防止法に定める商品等表示と認められる必要があったが、現在では商標として登録することも可能である。なお、立体商標の登録が認められる前に商品等表示として保護されたものに、たとえば、かに道楽の動く看板などがあった※10。
また、トレードドレスとしての全体的イメージや総合的外観が問題となった事例には、以下のようなものがある※11。
① 図書券表示事件※12
図書券の加盟店以外の者が図書券と図書を引き替えるという営業形態を採用した事例において、裁判所は、営業形態自体の商品等表示該当性は認めなかったが、「図書券お使いいただけます」との表示については不正競争行為であると認めた※13。
② めしや食堂事件※14
定食屋を営む原告が、主位的請求である看板等の表示に加え、予備的請求として店舗内外装等(サービス形態、メニュー含む)が営業表示であるとして、不正競争防止法に基づき訴えを提起した事件である。地裁及び高裁の両裁判所とも、看板等に関して被告表示との類似性を認めず、店舗内外装等については営業表示となる可能性自体は肯定したが、営業方法自体の独占不適応性に触れつつ原告が営業表示であると主張する店舗内外装等と被告のそれとの類似性を否定した。
③ イオンリテール商品陳列デザイン事件※15
子供用品店を全国展開している原告が、イオン、ジャスコといった小売りチェーンを展開する被告に対して、原告の商品陳列デザインが営業表示であるとして、被告店舗において使用されている商品陳列デザインの使用差止め及び損害賠償を求めた事件である。裁判所は、原告の商品陳列デザインを構成する要素にはありふれたものが多く、独自の特徴が認められないわけではないが、顧客に強い印象をもたらすものではなく、機能的要素の組み合わせであるため、それ自体が独立して営業表示性を取得しているとは言えないとした。また、「…原告商品陳列デザインは、原告独自の営業方法ないしノウハウの一端が具体化したものとして見るべきものである。…そうすると、上記性質を有する原告商品陳列デザインを不正競争防止法によって保護するということは、その実質において、原告の営業方法ないしアイデアそのものを原告に独占させる結果を生じさせることになりかねないのであって、そのような結果は、公正な競争を確保するという不正競争防止法の立法目的に照らして相当でないといわなければならない。」として、保護対象とすることを否定している。
このように、日本の判例は、営業に係るイメージ全体の保護の可能性は否定していない。しかしながら、個別事例においては、独占適応性を意識して、営業方法そのものに結びつく態様については保護を否定してきたと言える。
(2) 米国におけるトレードドレスの保護※16
米国では、州法でも連邦法であるランハム法においても、商標が視覚的に表現できるものに限定されていない(ランハム法2条はこれを明示している)。また、トレードドレスのように、取引主体を特定する表示として機能するものも保護対象として認めている(ランハム法43条(a)参照。)。
しかし、トレードドレスは商品の形態自体にも認められることから、しばしば機能的な要素が問題となるため、トレードドレスが表示として保護されるためには、はじめに、対象になっているトレードドレスが機能的でないことを示す必要がある※17。
また、記述的商標(産地、品質、包装形状等)については二次的意味を取得していなければ保護されないが、メキシコ料理のチェーン店の内外装等がトレードドレスとして保護されるかが争われたTwo Pesos事件※18で、連邦最高裁は、トレードドレスが「本質的識別力」を有する場合には、二次的意味を取得したという立証を必要としないことを示した。ただし、その後、商品形態や色彩自体のトレードドレスの場合には、本質的識別力を有しないため、二次的意味の立証が不可欠であるとの判断が巡回区裁判所等によって示され、連邦最高裁は、Wal-Mart事件※19で、(Two Pesos事件で問題となった)「商品の包装」と異なり「商品自体(もしくはそのデザイン)」の識別力については事実上その判断が困難であり、二次的意味の獲得を立証することが必要であるとした。
さらに、トレードドレスが表示として保護されるためには、混同の事実までは必要ないが、被告の商品や役務等と原告のトレードドレスの間に混同が生じる可能性が認められなければならない。
(3) トレードドレスとしての店舗外観
本件同様、店舗外観全体の保護の可否が問題となったものに、上記「めしや食堂」事件がある。同事件では、店舗外観のうち最も特徴があり主要な構成要素として需要者の目を惹くのは店舗看板とポール看板であるが、原告店舗と被告店舗において、これらが類似しないとされた。さらに、使用している配色の差等から原告店舗と被告店舗では全体としての印象、雰囲気がかなり異なったものとなっているとした。また、インターネットの書き込みについても混同対象を具体的に特定したものではなく、原告顧客が作成したメモやインターネットのブログにおける記載も、原告店舗と被告店舗の差異を明確に識別した上でなされたり、原告店舗と被告店舗の営業主体が異なることを前提にしているとし、誤認混同の具体的事例と評価できないとした。
同事件において、原告は、被告による「○○食堂(○○の部分には店舗所在地の名称が入る。)」という表示の使用を排除したいとの思いを有していたものと考えられる。しかしながら、裁判所も述べているように、このような表示は特定の営業主体の識別標識として捉えることはできない。原告の営業に関する表示全体の保護を求めるために重要な点は、裁判所も指摘するように「全体としての店舗外観の特定」であるが、原告はこれに対して十分に応えられなかった※20。また、原告が主張する内装等に関する特徴についても、「玉子焼き専用の注文を受けてから焼くコーナーであることを示す表示があること」は営業形態そのものの独占権を認める結果を招きかねないとして、また、「カウンターの上にカフェテリア方式の3列の陳列台が設置されていること」と「目隠しバーの設置された横長の大テーブル及び吊り下げ式の長い蛍光灯が設置されていること」についてはセルフサービスを用いるなどした多集客型の飲食店の店構えとして「きわめてありふれたものである」として、ともに類似性を基礎づける事情とすることはできないとされた。
同事件から、店舗外観に対して不正競争防止法上の商品等表示としての保護を求めるためには、原告の商品等表示の特定及び対応する被告の表示の特定が不可欠であり、その際、個々の特徴を挙げるのみでは不十分であり、個々の特徴によりどのような全体的印象を与えているかが特定されなければならないことがわかる。また、営業方法それ自体のように、独占になじまないものを商品等表示とすることができないことも示されている。
5.本件債権者表示保護の要件と保護範囲
(1) 債権者表示の特徴
債権者は、債権者表示の基準となる比較対象店舗を選択し、債権者表示が17の構成要素を備えていることを示し、さらに、関西地方における債権者の郊外型店舗について、これら構成要素を全て備えている店舗数(6店舗)と相違点が3カ所以内の店舗数(29店舗)を示し、和歌山県内の店舗についても詳細に一致度を示している。また、これら構成要素のうち主要な構成要素として12の特徴を挙げ、全国展開後は、これらの主要な特徴を有する店舗へと郊外型店舗は標準化されてきたことを示している。
また、これら構成要素及び主要構成要素の組み合わせが債権者の店舗外観の印象を作り出していること、及び債務者表示がこれに類似していることを参考写真を使用して示している。
さらに、テレビや新聞・雑誌というメディアで取り上げられた債権者表示に関して、構成要素と対比して債権者表示としての店舗外観の印象を具体的に特定している。
このことによって、債権者は、債権者表示の識別性、周知性、債務者表示の類似性、債権者表示が独占を認められない機能的な要素を含むものではないこと、ありふれた表示ではないことの立証に成功している。
(2) 保護に必要な要件
上記債権者の立証から、トレードドレスを商品等表示として保護するためには、①表示の特定(各構成要素とその組み合わせによる全体としての印象)、②債務者表示の類似性(債権者表示との誤認混同の事実を示すことが重要)、③表示の周知性(ある程度特徴が特定された上で需要者に認識されていたことを示すこと)、④表示が独占対象から排除されないこと(ありふれていたり、機能に関する要素を含むものでないことを示すこと)が必要であることがわかる。
(3) 保護範囲
本件は、十分に特定された場合には、店舗外観全体の印象が商品等表示として保護されることを示した。しかしながら、本件では、債務者が債権者のフランチャイジーとなることを望んでいながらこれを認められずに債務者表示を使用するに至った経緯等、債務者表示の使用継続を認めることに否定的な事情が表示の類似性以外にあったことも事実である。このような点を加味すれば、必ずしも店舗外観の商品等表示としての保護範囲は広くはないとも考えられる。実際、本件では債権者が表示の構成要素を限定して示しており、ある程度債権者表示を連想させる店舗外観を使用しても、これら構成要素との一致度が低い表示に関しては使用が不正競争とはならないことも十分に考えられる。
本件は差止めを求めたものであり、債権者表示の経済的評価は直接問題となっていない。すなわち、債権者表示の保護範囲がどこまで及ぶのか必ずしも明確にはなっていないと言える。債権者は本案訴訟も提起しているため、そちらでは、損害賠償額として、債権者表示の経済的価値が明らかになる。その際、本件債務者の営業利益額、商標等のライセンス額に相当する表示の使用料相当額、さらには、債権者ブランドの希釈化に対する損害等、損害賠償額算定の根拠が明確になる可能性がある。これにより、裁判所が本件債権者表示をどのように評価していたかが、より明確になる可能性があり、トレードドレスとしての店舗外観を裁判所がどの範囲で保護しようとしているかがより明確になると思われる。とりわけ、短期間ではあるが、本件命令以前に債権者は立体商標を取得しており、同商標権に基づく主張の有無にも注目が集まる。
6.トレードドレスの保護と商標の関係
(1) 立体商標出願のための資料と商品等表示の識別性・周知性を立証するための資料
当事者として関わる際に参考になるのは、本件で債権者が提出した「債権者表示目録」や「メディア目録」である。これらの証拠により、表示の特定及びその周知性の立証に成功した。すでに述べたように、債権者は、すでに立体商標の登録を得ているが、同商標の出願は平成28年2月であるため、本件仮処分事件の直後に出願したのではないかと考えられる。そして、本件で使用された各目録は、立体商標の出願でも極めて重要な資料となる。
立体商標の登録を得るためには、商標法3条1項3号(商標の積極的要件(記述的商標):商標は、事業者が自己の商品を他人の商品と区別させるために用いるため、自他商品識別機能を有しなければならない。産地・品質・形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標。)の例外を定める3条2項(使用による顕著性:3条1項3号から5号にあたる場合でも、使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができる。)への応答が必要になる。
本件では、債権者表示に関する各目録作成が、仮処分事件への対応のために初めて準備されたものであったのか、それとも立体商標出願のための資料が活用できたのか定かではないが、いずれにしても、自己のトレードドレスに関する詳細な資料の用意がブランドを構築し、また、適切な保護を確保するという好例となっている。
立体商標に比べトレードドレスは、一般論として、需要者の主観に影響される度合いが大きく、立体商標に比べ特定することが困難である場合もある。しかし、本件のように、トレードドレスと考える表示のうち商標として特定可能な部分に関しては立体商標としての出願も並行して行う(準備する)ことが、結果としてより広いトレードドレスの保護にも貢献することになる。
(2) 類似と誤認混同のおそれ(希釈化をどの程度排除するのか)
今後の制度のあり方として注目されるのは、本件で問題となったような店舗外観に関して、どの程度、誤認混同の可能性が独立して考慮されるか、ということである。不正競争防止法2条1項1号とは異なり2号に該当するということになれば、混同の可能性を証明することは不要になる。また、議論の余地はあるが、過去の立体商標の侵害事例※21では、原告商標と被告標章の類否判断からそのまま誤認混同の可能性を認めている。
本件では、債務者店舗とコメダ珈琲店との関係について問い合わせが多数あったこと等、混同のおそれについて独立した判断もなされているが、債権者から提出された債権者表示の詳細な特徴と債務者表示の類似程度が結論に大きく影響したことも否定できない。
登録商標にしろ未登録のトレードドレスにしろ、ブランド表示の究極の目的は、顧客から競争相手を引きはがすことにある。したがって、ブランド主体にとっては、誤認混同の有無は問題とならず、何らかの類似点があれば排除したいと考えるのが通常である。今後は、商標法と不正競争防止法それぞれが独占を認める対象を明確に示し、取引主体及び需要者にとって適正な競争が確保されるよう、対象となっている表示の周知性の程度、侵害対象とされる表示との類似の程度、及び誤認混同の可能性がそれぞれどの程度必要で、相互にどのように関係するのか、についてより多くの事例が積み重なることに期待する。
(掲載日 2017年2月27日)