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文献番号 2023WLJCC008
広島大学法科大学院 教授
新井 誠
Ⅰ 事実の概要
本件は、2021(令和3)年7月4日に行われた東京都議会議員一般選挙(以下、本件選挙という。)について、江東区選挙区の選挙人である上告人が、東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(以下、本件条例という。)に基づいて実施された本件選挙の江東区選挙区における選挙を無効とすること等を求めた訴訟の上告審判決(以下、本件判決という。)である。この訴訟において上告人は、(1)島しょ部の2町7村で1選挙区(島部選挙区)を構成することを規定する本件条例2条3項が、公職選挙法271条、憲法14条1項等に違反すること、(2)各選挙区において選挙する議員の数を定める本件条例3条が、公職選挙法15条8項、憲法14条1項等に違反すること、をそれぞれ主張していた(なお原審では原告の訴えが認められなかったことから上告している)。
Ⅱ 判決の要旨
上告棄却。
(以下、Ⅱにおける「」書きについては、最高裁判決からの引用である)。
1.島部選挙区規定の公職選挙法271条適合性
(1)「特例選挙区の設置を適法なものとして是認し得るか否かは、その設置についての都道府県議会の判断が、当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、隣接する他の市町村の区域との合区の困難性の有無・程度等に照らし、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決すべきものである(最高裁平成4年(行ツ)第172号同5年10月22日第二小法廷判決・民集47巻8号5147頁等参照)」。
(2)「島部選挙区は、本件条例制定当時から特例選挙区として存置されているが、これは、島しょ部は、離島として、その自然環境や社会、経済の状況が東京都の他の地域と大きく異なり、特有の行政需要を有することから、東京都の行政施策の遂行上、島しょ部から選出される代表を確保する必要性が高いものと認められる一方、その地理的状況から、他の市町村の区域との合区が、地続きの場合に比して相当に困難であることなどが考慮されてきたものということができる」。
(3)「東京都議会は、都議会のあり方検討会での検討を経た上で、令和2年条例改正の際にも、島部選挙区の配当基数は小さいものの、島しょ部の地理的特殊性等に照らし、島部選挙区を引き続き特例選挙区として存置することを決定したものとうかがわれる」(なお、配当基数とは「当該選挙区の人口を議員1人当たりの人口で除して得た数」のことを指す)。
(4)「本件選挙の直近に行われた令和2年の国勢調査の人口等基本集計による人口に基づいて計算すると・・・島部選挙区の配当基数は、0.221となるが・・・この配当基数が、東京都議会において島部選挙区を特例選挙区として存置することが許されない程度にまで至っているとはいえない」。
(5)「同議会が令和2年条例改正後の本件条例において島部選挙区を特例選挙区として存置していたことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれない」。
(6)「以上によれば、東京都議会が、島部選挙区を特例選挙区として存置していたことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件島部選挙区規定は、本件選挙当時、公職選挙法271条に違反していたものとはいえない」。
2.本件定数配分規定の公職選挙法15条8項適合性
(1)「憲法の要請を受け、都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、投票価値の平等を強く要求していると解される」公職選挙法15条8項の「規定に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが、上記各規定の定める選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきものと解される」。
(2)「本件選挙当時における投票価値の不平等は、東京都議会において地域間の均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、また、令和2年条例改正時及び本件選挙当時において、同項ただし書に定める特別の事情があるとの評価が合理性を欠いていたなどというべき事情は見当たらない」。
(3)「本件選挙の施行前に本件定数配分規定を改正しなかったことは、東京都議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件定数配分規定は、本件選挙当時、公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえない」。
3.本件島部選挙区規定及び本件定数配分規定の憲法14条1項、15条1項、3項、92条及び93条各適合性
「本件選挙当時の本件条例による特例選挙区の存置や各選挙区に対する定数の配分が東京都議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができること」から、「本件選挙当時、本件島部選挙区規定及び本件定数配分規定が憲法の上記各規定に違反していたものとはいえないことは、当裁判所大法廷判決(最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁等)の趣旨に徴して明らかというべきである(最高裁平成30年(行ツ)第92号、同年(行ヒ)第108号同31年2月5日第三小法廷判決・裁判集民事261号17頁参照)」。
Ⅲ 検 討
国政選挙に比べて地方議会議員選挙をめぐる投票価値の平等に関する訴訟への注目度はあまり高くなかったものの※2、このところ学界でも一定の関心が示されつつある※3。そうしたなかで本件判決は、単に地方議会選挙の議員定数配分の妥当性が問われることに収まらず、公職選挙法によって特に設置が認められる特例選挙区のうち、特に東京都の島しょ部をあわせてひとつの選挙区として「島部選挙区」を設置することの合法性、合憲性が問われたものとして注目される。
1.制度の概要
本件判決の記述なども踏まえると、本訴訟で関連する制度は、次のような設計になっている。
(1)法律上の諸規定
まず、都道府県議会の議員定数は、地方自治法90条1項により条例で定められる。
また、公職選挙法15条1項は、「都道府県の議会の議員の選挙区は、一の市の区域、一の市の区域と隣接する町村の区域を合わせた区域又は隣接する町村の区域を合わせた区域のいずれかによることを基本とし、条例で定める」とし、同2項は、「前項の選挙区は、その人口が当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員の定数をもつて除して得た数(以下この条において「議員一人当たりの人口」という。)の半数以上になるようにしなければならない。この場合において、一の市の区域の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しないときは、隣接する他の市町村の区域と合わせて一選挙区を設けるものとする」と規定する。
他方、公職選挙法271条は、「昭和41年1月1日現在において設けられている都道府県の議会の議員の選挙区については、当該区域の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員の定数をもつて除して得た数の半数に達しなくなつた場合においても、当分の間、第15条第2項前段の規定にかかわらず、当該区域をもつて一選挙区を設けることができる」と定めており、これが上記の特例選挙区となる。
以上のような選挙区設計のもとで、あわせて公職選挙法15条8項は、「各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる」としている※4。
(2)東京都議会の場合
本件選挙当時、東京都議会については、島部選挙区を含む42選挙区に127名の定数配分がされていた。本件条例が定められた1969(昭和44)年より特例選挙区として存置されていた島部選挙区につき、2012(平成24)年には、東京都議会に設置された「都議会のあり方検討会」が、引き続き特例選挙区として存置すべきだとする検討結果を報告している。その後、2020(令和2)年の本件条例改正により2つの選挙区定数を1増1減とする改正がされた。なお、島部選挙区の配当基数は同改正時には0.249であったが、これまでと同様、継続的に特例選挙区として島部選挙区を設置することとされた。
2.これまでの諸判決
(1)判例の流れ
地方議会議員選挙における一票の較差をめぐる訴訟については、前述のように、(A)特例選挙区を除く一票の較差をめぐる問題と、(B)特例選挙区制度を理由とする固有の問題とが、争われる。
このうち、東京都議会をめぐる(A)の問題については、最高裁が、3度に渡り「違法」判断を示している※5。他方、東京都議会をめぐる(B)の問題につき最高裁は、1995(平成7)年に判断しているが※6、この事例は、1993(平成5)年施行の都議会議員選挙において、1992(平成4)年から特例選挙区となった千代田区選挙区をめぐるものであった(結果は「適法」との結論となっている)。さらに、1997(平成9)年施行の都議会議員選挙に関して、特例選挙区としての千代田区選挙区をめぐる最高裁による1999(平成11)年判決※7があるが、こちらも適法との結論を得ている(この千代田区選挙区は、配当基数が0.5を上回ったために2016(平成28)年の本件条例改正により特例選挙区から除外された。これ以降、東京都議会における特例選挙区は、上記の島部選挙区のみになった)。
東京都議会をめぐる(A)の問題については、2013(平成25)年施行の選挙につき、2015(平成27)年に最高裁による判断がなされている※8。なお、その原審判決※9によれば、「人口較差は、島部選挙区対北多摩第三選挙区間の一対五・四三・・・が最大であり、島部選挙区を除くと、千代田区選挙区対北多摩第三選挙区間の一対三・二一が最大で、特例選挙区とされた千代田区選挙区及び島部選挙区を除く選挙区間の人口較差の最大は中野区選挙区対北多摩第三選挙区間の一対一・九二である」であるとされているが、最高裁は判決では、(B)の問題に踏み込んだ判断はされないまま、適法判断がされたように思われる。
(2)本件訴訟固有の特徴―島しょ部につき特例選挙区として島部選挙区を設置すること
以上、これまでの東京都議会における各選挙区の定数配分訴訟の状況をまとめると、島しょ部についての特例選挙区として島部選挙区を設置あるいは今後とも存置すること(また、それによって生じる一票の較差の出現)をめぐって争われた訴訟は従来少なく、2017(平成29)年施行の都議会議員選挙をめぐって争われた最高裁2019(平成31)年判決※10(以下、平成31年判決という。)が初めてのものとなる※11。2021(令和3)年に施行された同選挙をめぐって争われた本件判決は、島しょ部につき特例選挙区として島部選挙区を設置することについての、それに続く二つ目の最高裁判決としての位置づけにある。
3.本件判決の特徴
(1)島しょ部特例選挙区設置をめぐる適法性審査の判断枠組み―平成31年判決との比較
上述のとおり本件の固有の議論としては、なによりも、島しょ部特例選挙区設置をめぐる適法性(合憲性)に関する議論が重要である。この点でまずは興味深いのは、本件にかかる適法性審査の判断枠組みの説示である。
本件判決では、「特例選挙区の設置を適法なものとして是認し得るか否かは、その設置についての都道府県議会の判断が」、いくつかの「観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決すべきものである」としており、それ以上の条件を付していない。これに対して平成31年判決では、それと同趣旨の説示のあと、「もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関して公職選挙法15条1項から4項までが規定しているところからすると、同法271条は、配当基数が0.5を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解されるから、このような場合には、特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は、合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である」とする。このように公職選挙法271条に適合しない場合に関する解釈指針が示されると同時に、配当基数につき「0.5を著しく下回る」という客観基準が示されていた。ただし、この「著しく下回る」ことの客観的指標が明確にあるわけではない(この点、愛知県議会議員選挙区における特例選挙区が問題となった事例の最高裁平成5年判決(適法)※12において、藤島昭補足意見が「当該選挙区の配当基数が〇・五の二分の一(〇・二五)に満たない数値に至ったときは、社会の健全な常識に照らし、配当基数〇・五を著しく下回るものと評価されてもやむを得ないと考える。したがって、配当基数〇・二五にも満たない郡市をもって独立の選挙区を設け、あるいは、それを存続させたとすれば、そのような当該都道府県議会の判断は、社会通念に照らして著しく合理性を欠くことが明らかなものということができよう。」と示しているものの※13、当然ながらこれは確定的な法理とはいえない)。平成31年判決では、同判決の対象となる選挙における島部選挙区の配当基数は0.249であったが、これについての違法判断はなされていない。
一方の本件判決では、同判決の対象となる選挙における配当基数の場合、2020(令和2)年の条例改正時の配当基数は0.249であったものの、選挙直近の2020(令和2)年国勢調査に基づくものだと0.221となっており、平成31年判決時に比べると0.5基準値の二分の一からの差も大きくなっている。もっとも繰り返しになるが、本件判決では、平成31年判決に比べても合理的裁量の限界ラインを見出す説示はなく、数値基準には現状においてはあまり囚われない方法で、島しょ部の固有の事情をより汲み取り、特例選挙区制度の妥当性を示しているのだといえよう(他方で、一応「配当基数が、東京都議会において島部選挙区を特例選挙区として存置することが許されない程度にまで至っているとはいえない」との説示をするところからすれば、観念的なレベルにおいては一定の限界が想定されているものと見ることもできる※14)。
(2)離島であることの固有性
では、具体的な審査においては、地続きの市町村等の合区強制などと、問題とされる視点は同じであろうか。この点、先に見た愛知県議会議員選挙の特例選挙区をめぐる平成5年判決や、東京都議会選挙の別の特例選挙区(千代田区選挙区)をめぐる平成7年判決でも「隣接の郡市との合区の困難性の有無・程度等」という言葉が見られる。そして、郡を基盤とする選挙区制度の設定方針が廃止された後の、平成31年判決、本件判決でも「隣接する他の市町村の区域との合区の困難性の有無・程度等」は示されており、これを含めた総合考慮に基づく判断であることに変わりはない。
しかしながら、平成31年判決や本件判決では、ともに「島しょ部は、離島として、その自然環境や社会、経済の状況が東京都の他の地域と大きく異なり、特有の行政需要を有することから、東京都の行政施策の遂行上、島しょ部から選出される代表を確保する必要性が高いものと認められる一方、その地理的状況から、他の市町村の区域との合区が、地続きの場合に比して相当に困難であることなどが考慮されてきたものということができる」との説示をしており、そこには地続きの市町村等の合区との大きな違いが明確になっている。具体的には、同じ都道府県内であったとしても、地方政治・行政に求める問題関心が著しく異なる可能性がありながらも、そことは地続きでない距離的にだいぶ離れた人口多数地域と合区強制をされてしまえば、構造的に島しょ部固有の関心時への配慮の効かない選挙となってしまう可能性は否定できない、ということが懸念材料となるのであろう。そうであるからこそ、ひとつの解決策として、島しょ部における各島を選挙区とすることが人口比などからしてあまりにも難しいなかで、島しょ部のみの2町7村という枠組みを用いてひとつの選挙区としていることの意義は大きい(細かく見れば、島と島との間での対立などもあるかもしれないが、島部選挙区は、こうしたことを選挙区設定における考慮事項にはしないことに意味があるといえる。おそらく、あくまで「特有の行政需要」に関する住民の声の反映を確保するための制度設計であることに注意が必要である)。こうしたことからすれば、平成31年判決について「本判決が、陸続きの過疎地で同様の配当基数の場合までも特例選挙区を許容する趣旨とは解されない※15」とする評価が、本件判決にも同様にいえると思われる※16。
(3)その他の論点
本件判決は、その他示された論点についてそれほど厚い説明を展開するわけではない。
まず、公職選挙法15条8項で求められる人口比例原則についても、国政選挙における議論などに比べると、数値もさることながら都道府県議会に認められる裁量権の合理的行使の幅も緩やかに解されているように感じられる。同項但書に「特別の事情」に基づく「地域間の均衡」について示されていることも大きいように思われる。
また、憲法上の平等原則については、非常に簡潔な審査で終わっている。すなわち、本件判決は、「本件選挙当時の本件条例による特例選挙区の存置や各選挙区に対する定数の配分が東京都議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができること」から、「本件選挙当時、本件島部選挙区規定及び本件定数配分規定が憲法の上記各規定に違反していたものとはいえない」とする。この点は、地方議会議員選挙の定数配分等をめぐる訴訟に対するこれまでの最高裁判決と同じである。ただ、こうした説示では、どのような場合や時期において設置されたのかということとは無関係に、そもそも特例選挙区自体を認めている規定が違憲とはならないのか、といった公職選挙法自体の合憲性審査が捨象されているおそれは否めない※17。さらに、過去の国政選挙の選挙制度をめぐる平成11年最高裁大法廷判決の「趣旨に徴して明らか」とするが、このことについても丁寧な説明がほしいところである※18。
4.おわりに
冒頭に述べたように、国政選挙における一票の較差訴訟などと比べるといまだなお注目度が低い問題であるからか、本件問題をめぐる最高裁による論理展開も、これまで、やや緻密さの欠けるものであったともいえるし、また、本件判決もしかりである。もっとも、離島からの政治参加については、上述したように、そもそもの前提として一般的な投票価値の平等論では済まない固有の問題があるであろう※19ことから、特例選挙区の設置を許容する現状の公職選挙法上の制度については、一定の有用性があることも確かである。
国政選挙を含めて、とかく投票価値の平等の厳格な確保こそが、憲法上の民主主義的正義であるように捉えられる傾向がある。しかし、そうした価値以外の多様な要素があることを踏まえて、公正かつ効果的に利益を代表議会に反映させるという道のりもまた、現行憲法の下で許容される可能性があることに目を向けたい。そうした視点を踏まえるのであれば、本件最高裁判決の流れもまた、批判のみで片付けられない一定の意義を持つことになろう。
(掲載日 2022年4月17日)