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文献番号2023WLJCC009
東京都立大学 名誉教授
前田 雅英
Ⅰ 判例のポイント
ベトナム人技能実習生が密かに出産したと思われる双子の死体が、段ボールに丁寧に入れられ封をされた態様で、出産時から約2日を経過したと思われる時点で発見された事案で、死体遺棄罪(刑法190条)で、母親が起訴された。被告人は、産婦人科でも行われている方法で、えい児を段ボール箱に入れ、各えい児の死体をタオルで包み、それらの名前やおわびの言葉等を書いた手紙を段ボール箱の中に入れるなど丁寧に扱っていたと認められたが、第1審、原審ともに有罪を言い渡した。
妊娠は女性技能実習生の解雇理由にはならないものの、妊娠した技能実習生の中には、実習を行うことができなくなり帰国した者がいたという事実もあり、技能実習生の間では妊娠をすると帰国させられるとの噂が広まっていたと認定されている。多額の費用をかけて技能実習生として来日し、家族に仕送りをしていた被告人が、技能実習を続けるために、妊娠、出産を隠そうと考えて犯行に及んだ本件に関し、上告審の可罰性判断が注目されていた。そのような中で、最高裁は、第1審・原審を破棄し、被告人に無罪を言い渡した。なお、第1審・原審段階では、本件の実行行為が作為なのか不作為なのかも争点となった。
(掲載日 2023年4月19日)