金沢大学 人間社会学域法学系 教授
大友 信秀
金沢大学法学部知的財産法ゼミの学生が地元野菜生産者の地域団体商標取得に協力していることは以前に紹介した(2008年4月28日掲載)。地域への協力は、石川県七尾市の沢野ごぼうから始まり、白山市旧河内村のヘイケカブラという野生種のカブの商品化、輪島市金蔵(かなくら)地区の棚田はざ干し米のブランディング、夏に行われる万燈会の地元資源としての活用などに広がった。
各地域との連携は、一定の評価を受け、「立ち上がる農山漁村-新たな力-」への選定(2008年12月)、大学コンソーシアム石川地域課題研究ゼミナール最優秀賞(2007年度2件中1件、2008年度2件中2件)等の結果につながった。
学生による地域貢献活動としては、一見成功のように見える活動歴であるが、学生たちには、毎年のように腑に落ちない疑問があった。それは、「なぜ法学部なのに、農産品のブランディングをしているのか?」というものであった。社会学部の学生であれば、地域の調査が学習目的そのものであるし、経済学部の学生であれば、市場分析等も行うことができる。
社会学の研究者がなぜ農村に入り込むのか、経済学者が農業の経営分析をなぜ行うのか。それは、自らの研究成果に直結するからである。学生を同行するのも、研究素材を生かした教育に直結するからである。では、法学部知的財産法ゼミの活動は自分たちの専門とどのような関係にあるのか。
答えは、直接の関係はほとんどないということになる。では、なぜそのような活動を行っているのか。地域の活動をしても指導教員の研究成果にはならない。このことは実は非常に重要な意味を有している。自分の研究成果にならないのであれば、学生の学習効果や地域の関係者の利益を考えるようになるからである。調査をして終わり、専門的分析をして終わりということが許されないため、目に見える結果を別に求めなければならない。自分の専門がそのままで役に立たないのであれば、真に必要な専門を有している者を探し出し紹介しなければならない。また、専門家でないから発見できる問題も地域には数多く存在している。
日々、条文、判例、論文をもとにキャンパスで勉強している法学部の学生は法学というものがどのような学問なのか、社会の中でどれぐらい使えるのか、ということを意識することはほとんどない。地域に出て、地域団体商標制度自体を知っていても何もならないということを知る。論理的思考のみでは解決できない問題がある。そのような経験をつんでキャンパスに戻れば自ずと学習に臨む態度も違ってくるものである。
外部資金を基にプロジェクトを1年間やりとげても、農産品を利用した継続的事業が立ち上がっているわけでは必ずしもない。経験をつみ、その点に気付いた学生は、株式会社を立ち上げ、地域資源の発掘・活用・事業化を目的とする事業を遂行する決意をした。学生さんというお客さんの立場で地域と関わるのではなく、当事者として関わる決意をしたということである。
会社名は株式会社きんぷる。きんぷるの「きん」は金沢の金から、「ぷ」は学生意識を捨てプロフェッショナルとして関わるという決意から、「る」は活動の始まりがごぼうやヘイケカブラという根野菜であったため、英語のRootsの頭文字から、また、地域にルーツを持ち、継続して活動するということをも表している。
(掲載日 2009年5月18日)