第198回  事実を隠蔽する体質は、あるべき組織の姿でない

おおとり総合法律事務所弁護士
専修大学法科大学院教授
矢澤 昇治

いま、大津市立中学校の生徒が自殺した問題で、学校、教育委員会、警察などの関係ある組織の対応に批判が向けられている。担任教諭、学年主任、教頭そして校長を含む協議で、いじめではなく「けんか」と結論づけられた。そのための協議時間はわずかに15分間という。被害生徒の保護者の調査要請に基づき、教育委員会も調査した。そして、「いじめを認定したが、自殺との関係は不明である」として、調査を打ち切った。しかし、学校任せの調査にとどまり、被害生徒が「自殺の練習をさせられていた」などの重要な情報を把握すらしていないことも明るみにされた。警察も、保護者からの3回にも及ぶ被害届を無視した。かくして、少年の自殺問題に対する関係機関の対応のまずさが指摘されると、俄に、暴行容疑で、関係機関の捜索をしはじめるという体たらくであり、その後、保護者からの6つの罪名に及ぶ告訴を直ちに受理することも、異常の対応であると云わざるをえない。

当職は、2006年7月に水戸市立中学校で起きたいじめから派生した傷害事件の損害賠償請求事件を担当した。この事件でも、学校、教育委員会ならびに警察は、少年間のけんかであるとして、いじめの事実を隠蔽し、それに向けた対応をしなかった。司法も、2010年8月5日に下された判決で傷害について加害生徒の責任を認めたが、担任教諭がいじめを認めたにもかかわらず、いじめであると認定しなかった。とにかく、被害少年は、幸いにも自殺に追い込まれる前にこの学校でのいじめから辛うじて逃れることができた。しかし、転校を余儀なくされたことは云うまでもない。

いじめの問題が発生しても、関係諸機関は、いじめられている生徒の立場で事案に対処することがない。それどころか、いじめの事実を隠蔽し責任逃れに奔走してきたのである。そして、この事実の隠蔽工作は、教育の現場にとどまらない。海上自衛隊は、自殺した乗組員の遺族からの文書(アンケート)の開示を求めたことに対して「破棄した」と虚偽の回答をなし、意図的に情報を隠匿しようとした。そして、冤罪が明るみになった「氷見事件」の国賠訴訟では、被害者の下着に付着していた精液鑑定が、被疑者とされた柳原さんの血液に結びつかないとの検査結果を得ていたにもかかわらず、これを無視していたことが暴露された。かくして、事実を隠蔽するにとどまらず、虚偽の事実をデッチ上げることに発展した。

事実が判然としなければ、真実の評価や発見はできなくなる。そして、事実や真実も存在しない組織は、やがて崩壊するに到らざるをえないであろう。今、私たちにとって必要なことは、確かな事実であり、真摯に事実に対峙することではあるまいか。

 

関連コラム: 第117回 「いじめ」は、いじめられた児童生徒の立場で認定されるべきでないか?
https://www.westlawjapan.com/column/2010/100816/

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(掲載日 2012年7月30日)


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