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文献番号 2020WLJCC032
関西大学会計専門職大学院
教授 中村繁隆
1.はじめに
令和2年6月24日、東京高裁において、ユニバーサルミュージック事件(以下、本事件という)の控訴審判決(以下、本判決という)があり、原審判決※2(以下、原判決という)と同様、納税者勝訴の結果となった。筆者は本コラム195号※3で、原判決を主にBEPS(Base Erosion and Profit Shifting.以下、同じ)への対応という観点から若干の考察を行ったが、本コラムでも同じ観点から考察を試みてみたい。
なお、本判決は、原判決の認定事実をほぼそのまま引用しているため、本事件の概要については、本コラム195号を参照願いたい。また、主たる争点も、本件借入れが法人税法132条1項の不当性要件※4に該当するか否かという点で、原判決と同様である。
2.控訴人の主張
控訴人(国。以下、同じ)は、原判決と同様、「本件借入れは、極めて異常で変則的なものであり、これを行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な事業目的等はなかったから、経済的合理性を欠く不当なものであったと認められる」旨、主張する。また、BEPSとの関連では、デット・プッシュ・ダウンについて、「企業グループ内の取引として実行されるデット・プッシュ・ダウンは、当該グループにとって新たな収益性が外部から流入するわけではなく、当該子法人としても、グループ内の被買収企業としても、実質的な資金需要があるとはいえないことが多いから、当該子法人にとって借入れに係る負債の導入それ自体が経済的な犠牲を強いられるものでしかなく…オランダ法人の負債軽減を図ること・・・やヴィヴェンディ・グループの財務を合理化すること・・・は、・・・被控訴人にとって経済合理性があることとは直接結びつくものではないか、間接的ないし抽象的な利益で・・・被控訴人の犠牲を上回るものではない」と主張する。
3. 判示
東京高裁は、不当性要件の判断枠組みについて、まず、「・・・法人税法132条1項は、少数の株主又は社員が支配する同族会社等においては法人税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、同族会社等に係る法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。このような同条の趣旨及び目的からすれば、同族会社等の行為又は計算が同項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不自然、不合理なものと認められるか否か、すなわち経済的合理性を欠くか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される(したがって、上記のような経済的合理性を欠く同族会社等の行為又は計算が、同族会社であるためにされた不自然、不合理な租税負担の不当回避行為として、不当性要件に該当することになる。)」と述べ、本判決がいわゆる経済的合理性基準を採用することを明らかにした上で、次に、「・・・同族会社が当該同族会社の株主等又はその関連会社からした金銭の無担保借入れが不当性要件に該当するか否かについては、当該借入れの目的、金額、期間等の融資条件、無担保としたことの理由等を踏まえた個別、具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。特に、上記のような借入れが当該同族会社の属する企業集団の再編等(以下「企業再編等」という。)の一環として行われた場合においては、組織再編成を含む企業再編等は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあること等に照らすと、①当該借入れを伴う企業再編等が、通常は想定されない企業再編等の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような借入れを伴う企業再編等を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情も考慮した上で、当該借入れが経済的合理性を欠くか否かを判断すべきである。このことは、国際的な企業集団の再編等の一環としてされた当該借入れについても同様である。」と判示した。
そして、東京高裁は、上記の①及び②の事情をみた上で、本件借入れの目的、金額、期間等の融資条件、無担保としたことの理由等をも併せて考慮し、本件借入れが専ら経済的、実質的見地において純粋経済人として不自然、不合理なものと認められるか否かを個別に検討した結果、「本件借入れが専ら経済的、実質的見地において純粋経済人として不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであるというべき事情は見当たらない。
そうすると、本件借入れは、同族会社であるためにされた不自然、不合理な租税負担の不当回避行為とはいえず、法人税法132条1項にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たらないと解するのが相当である」と判示した。
4. 本判決の検討
4.1. 本判決の特色
上記3の第一パラグラフの後半部分の判示から、本判決が新たな経済的合理性の存否の判断方法を採用し、非常に注目されると指摘する評釈が存在する※5。同評釈は、「関連会社等からの無担保借入れが企業再編等の一環として実施されたような場合における当該借入れの経済的合理性の存否の判断に当たっては、融資条件等の当該借入れ自体に係る事情を検討するだけでなく、(当該借入れ自体にとどまらずそれが一環を成すところの)企業再編等の不自然さや合理的理由の存否をも考慮する旨を明示した※6」点に注目する。
また、上記3の第一パラグラフの後半部分の①及び②の判示から、法人税法132条の2のいわゆる組織再編成の行為計算否認規定における不当性要件の解釈と類似する表現となっていると指摘するものがある※7。
さらに、本判決だけでなく、原判決も含めて、「同族会社等の行為又は計算の否認については、・・・公平のために行われる伝家の宝刀とされてきた。しかし、法人の行った行為に経済的合理性があれば、法132条を安易に適用すべきではないというのが新しい解釈であり、これが課税要件である」と論ずるものがある※8。
4.2. デット・プッシュ・ダウンに対する本判決の評価
上記3には、東京高裁が本件借入れの目的等、個々に検討した部分を紙幅の関係上、割愛したが、上記2の控訴人のデット・プッシュ・ダウンに対する主張に対し、東京高裁は「本件再編成等スキーム※9に基づく本件組織再編取引等が、・・・オランダ法人の負債軽減及び日本の関連会社の財務の合理化という観点からみた場合、被控訴人に本件借入れに係る債務の負担及び利息の支払といった経済的負担をもたらす面があることは否定できないが、なお被控訴人に税負担の減少以外の経済的利益をもたらすものであったといえる」と判示し、控訴人の主張を認めなかった。
ところで、原判決と同日に東京地裁で判示されたTPR事件※10を比較検討し、適用条文の差異※11だけではなく、組織再編取引に事業上の必要性があったかという点で結論が分かれたと思われると指摘するものがある※12。この点に関連する部分では、東京高裁は「・・・仮にその同族会社単体でみたときには当面の資金需要がなかったとしても、当該企業集団として、企業集団全体の財務マネジメントその他の経営判断から、その同族会社において他の企業を買収する資金を負担することが合理的に必要となるような場合には、その同族会社にとっても合理的な資金需要になると考えられる」と判示している。
以上を踏まえると、本判決は、デット・プッシュ・ダウンについて好意的に評価している点で、原判決と同様であるといえる※13 。
5. おわりに
本コラムでは、BEPSへの対抗という本コラム195号と同じ観点から、本判決の考察を行った。その考察から得られた私見としては、法人税法132条1項の不当性要件の判断基準、すなわち、経済的合理性基準による解釈論では、BEPSへの対抗という点において限界のあることが改めて浮き彫りになった、ということである。
そもそも、各国の法人税制がまちまちで、個別法人ごとに利子費用控除を認める構造の下では、多国間の枠組みで対応することが望ましいが、現実的なハードルが高い※14といわれている。そうなると、わが国としては双務的ではなく、片務的に対応することになるが、個別的租税回避否認規定である過大支払利子税制(租税特別措置法66条の5の2等)導入前の本事件の場合には、一般的否認規定で対抗せざるを得ない。しかし、上記4.2のように、企業集団全体のレベルにデット・プッシュ・ダウンの経済的合理性を認めるだけではなく、その企業集団全体の一部を構成する同族会社単体のレベルにもその経済的合理性を認める限り、法人税法132条1項による否認は困難であると思われる。
最後に、本判決後の令和2年7月7日、最高裁に上告受理申立てがなされている。
(掲載日 2020年11月30日)